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東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)137号 判決 1974年4月16日

東京都目黒区上目黒五丁目一三番九号

原告

下村豊治

右訴訟代理人弁護士

中篠政好

東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号

被告

目黒税務署長

小林猛

右指定代理人

中村勲

小山三雄

岩崎章次

石川新

右当事者間の所得税更正決定等取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立て

一、原告

1. 被告が原告の昭和四四年分の所得税について昭和四五年一〇月一六日付でした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

1. 本案前の申立て

主文同旨

2. 本案の申立て

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1. 被告は、原告の昭和四四年分の所得税について、昭和四五年一〇月一六日付で総所得金額を三一、一三〇、五二四円(課税所得金額三〇、六七九、〇〇〇円)、所得税額を一五、八九九、八五〇円とする更正処分(以下、本件更正処分という。)および過少申告加算税を七九四、九〇〇円とする賦課決定処分(以下、本件賦課決定処分という。)をした。

2. しかし、本件更正処分および本件賦課決定処分は違法であるので、原告は、右各処分の取消しを求める。

二、請求原因に対する被告の認否および本案前の主張

1. 請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。

2. 本件訴えは、以下のとおり、適法な審査請求についての裁決を経ないで提起されたものであるから、行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項により不適法であり、却下されるべきである。

(一)  原告は、本件更正処分および本件賦課決定処分を不服として、昭和四五年一一月一一日被告に対して異議の申立てをした。それに対して、被告は、昭和四六年二月四日異議申立てを棄却する旨の決定をし、当該決定書の謄本は翌日である同月五日原告に送達された。

(二)  ところが、原告は、右決定書の謄本が送達された日の翌日から起算して一か月を経過した日の後である同年三月八日、さらにこれを不服として東京国税不服審判所長に対して審査請求書を提出した。

(三)  国税不服審判所長は、右審査請求は国税通則法七七条二項所定の不服申立期間を徒過してなされた不適法なものであるとして、昭和四八年七月九日付をもつて却下の裁決をした。

(四)  本件訴えは、右審査請求が右の理由で却下されたにもかかわらず、原処分である本件更正処分および本件賦課決定処分の取消しを求めるものであるが、課税処分の取消しの訴えは、国税通則法一一五条一項により、当該処分について、決定の不服申立期間内に不服申立てをし、かつ、これに対する裁決を経由した後でなければこれを提起しえないのであるから、本件訴えは、適法な不服申立てを欠く不適法なものというべきである。

三、本案前の主張に対する原告の認否および反論

1. 被告の本案前の主張(前記二2)のうち(一)ないし(二)の事実は認めるが、(四)の主張は争う。

2. 本件訴えは、以下の理由により適法というべきである。

(一)  課税処分の取消しを求める訴えについて、裁判所への出訴を制限する行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項の各規定は、裁判を受ける権利を保障した憲法三二条に違反し、無効であるのみならず、審査庁が行なつた却下の裁決のために権利を違法に侵害された納税義務者が訴訟により救済されないという結果を容認するものであるから、すべて司法権は最高裁判所および下級裁判所に属するものとし、行政機関は終審として裁判を行なうことができない旨規定した憲法七六条にも違反し、無効である。

(二)  原告は、本件更正処分により権利を侵害された者で、かつ、右処分の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者であるから、国税通則法一一五条の規定にかかわらず、本件訴えは、行政事件訴訟法九条の「法律上の利益を有する者」についてのかつこ書により適法というべきである。

理由

まず、被告の本案前の主張について判断する。

請求原因1の事実は当事者に争いがなく、また、被告の本案前の主張(前記第二の二2)(一)ないし(三)の事実も当事者間に争いがない。

そうすると、本件のように更正処分および過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求める訴えは、原則として、右処分について適法な審査請求についての裁決を経た後でなければ提起できないことは、行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項の各規定上明らかであるところ、本件の場合、本件更正処分および本件賦課決定処分についての審査請求は不適法であるとして却下の裁決がなされたものであるから、右裁決が違法になされたことを認めるべきなんらの資料もない以上、いまだ適法な審査請求についての裁決を経たものとはいえず、その他右裁決を経ない本件訴えを適法ならしめる事由も見出しがたい。

これに対して、原告は、行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項の各規定は憲法三二条および七六条に違反する旨主張するが、裁判所に対する訴提起の前提要件として行政機関に対する不服申立前置主義を採つているからといつて、そのことによりなんら司法救済の途をとざし、あるいは本当に制限するものでないことはいうまでもないことであり(なお、行政事件訴訟法八条二項、国税通則法一一五条一項ただし書参照)、それは立法政策に委ねられたことがらであると解すべきであるから、原告の憲法三二条違反の主張は失当であるというべきである。また、前示不服申立前置主義を採る右各規定の結果、不服申立期間を徒過したために裁判所への提訴の途がなくなつたとしても、それは右法律の規定を遵守しなかつたことの法的効果にほかならず、そのことによつて行政機関が司法権を行使したり、あるいは、終審として裁判を行なつたことになるものでないことは論じるまでもないことであるから、原告の憲法七六条違反の主張もその前提を欠くものというべきである。

原告は、また、行政事件訴訟法九条の「法律上の利益を有する者」についてのかつこ書を根拠として本件訴えは適法である旨主張するが、法律の誤解によるか、もしくは独自の見解に基づくものであり、採用の限りでない。

叙上の次第で、本件訴えは不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 加藤和夫 裁判官 横山匡輝)

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